2010年7月28日水曜日

川田喜久治スライドショー&トーク

毎日暑いですね。

僕も最近はこんなに暑いとすぐに夏バテ気味になってしまいます。夕方になると無性にビールが飲みたくなります。4歳の娘を保育園に迎えに行って、ご飯を食べさせたり、遊びの相手をしているとすぐに眠くなってしまいます。

夕べもグリム童話の蛙の王子を読み終わるともう眠くなってしまって娘とともにダウン。

でも、日本の夏はやはり日本という土地の醍醐味ををかんじさせるなんともいえない風情があるので、どんなに暑くても日本の夏は大好きです。

5月13日からフォトギャラリーインターナショナルで開かれていた川田喜久治氏の写真展World's Endの写真展のくくりとして開かれたスライドショーが去る7月3日に行われました。オブジェとしてのプリントと写真集にこだわり続けてこられた氏がスライドショーを行う、という事で注目していましたが、とても面白くスリリングなものに仕上がっていました。何よりも写真展では感じなかった要素として人を撮影しているシーンが非常に多かったことが驚きでした。

アサヒカメラにも氏のインタビューが掲載されています。その中で、「想像よりも現実のほうがすごいわけだし、写真はその現実を越えるものであると認識している」といった主旨の言葉がありましたが、重要な言葉だと思います。土門拳氏の言葉にも「今、撮らないと平等院が逃げていく」といった言葉があったかと思います。動かない平等院が逃げていくわけはないのですが、写真家が立ち会ったその瞬間の風景はまさに一期一会であるわけで、その瞬間にシャッターを押すしかないのです。
川田氏も同じように「毎日撮影していないと落としていく風景がある」といったようなお話をされていると思います。

氏はよくクライシスという言葉で自作を表現されています。氏の写真はまさに世界の裂け目をうつしとった風景です。7/3のトークでももう自動的に世界の裂け目に向かって指がシャッターを押してしまう、とおっしゃっていました。
世界の裂け目が六本木の路上や東京の都市の道行く人々にも現れてしまっているのがなんとも恐ろしい事に感じました。

そういえば氏には不思議な霊感があるのだそうです。工作舎時代に氏に写真の掲載をお願いすべく電話をして伺うと、「永田くんから電話がある、ということが事前にわかるんだ。」とおっしゃっていましたし、ある年の年賀状には神戸でクライシスを感じる、と書かれていました。これって、あれですよね。

ともあれ、川田喜久治氏が今一番注目すべき世界の写真家の中の一人であることは間違いありません。そして、氏のスライドショーが今後どんな展開をみせるのか、これも注目すべきです。iTuneに写真家のスライドショーが売られる時代がくるのか、それともiPad用のスライドショーが含まれる新しい形の写真集があらわれるのか。


気軽にサインに応じられる川田氏。
フォトアルバム形式のオリジナルプリント写真集。250万円ほどの値がつくそうだ。10部限定版。それでも世界のマーケットから見たら安すぎるのではないだろうか。

アメリカで9/11の事件があったその日は日本でも異常な夕焼け空であったという。その空を川田氏は撮影している。

2010年7月1日木曜日

40回目だったアルル その5

さてさて、今年のアルルはどんなことになるのだろうか。ウェブを見るとミック・ジャガーやミュージシャンの特集もあるようだし、クリスチャン・ラクロワもまたなにかやるのかもしれない。

ミック・ジャガーといえば、FIFAワールドカップのアメリカ戦のビップ席にクリントン元大統領とツーショットで映っていましたなぁ。

今年の4月には北京でアルルとの提携フォトフェスティバルが開かれた。ディレクターはフランソワ・エベル氏。ポートフォリオレビューも行われたそうだ。やはり世界の視線は中国にいくのでしょうか。


ともあれ世界最大の写真のお祭りのオープニングウィークは写真にどっぷり浸りきった至福の時間を過ごすことができる。何はともあれ、まずは行ってみることだ。

本部
ヘルムート・ニュートン。僕は初めてのパリロケで到着したその日の夜に中華レストランにいったところ氏と遭遇。早速自己紹介して、サインをいただいた。ミーハーじゃ。

アニー・リーボヴィッツ。昨年は破産騒動に巻き込まれて大変な話題になりました。ともかくも今撮影に一番お金をかけられる写真家。
ルシアン・クレルク。いやあ、さすがです。裸の美女に囲まれて正々堂々。
サテライト企画もたくさん行われていた。結構面白いのがある。



中央広場付近で行われている番外のポートフォリオレビューに並ぶ人たち。毎回1時頃から受け付けをしているようだった。
プロバンス地方の朝市。8時から1時までProvencal Marketということでちゃんとプログラムの中に記載されている公式イベント。
本場イタリアに負けないようなパルメジャーノ・レッジャーノ。日本で買えばほんのわずかで1000円てな値段。ここではドカーンとでっかいのを量り売りで買えます。

40回目だったアルル その4

せっかく大枚はたいてアルルに行くからには展示やスライドショーを見たり、フォトフォリオレビューに参加するだけではなく、主催者から運営のノウハウなどをぜひとも聞いてみたいと思っていた。

事前にメールを出して取材の申し込みをすると、なんと総合ディレクターのフランソワ・エベル氏から直接お話を聞けることになった。

イベントのような事を少しでもやったことのある人ならすぐわかることだが、イベントの主催者はイベント最中は超過密なスケジュールを過ごすことになる。突発的なアクシデントにも対応しなければならないし、イベントをスケジュール通りに進行させるだけでも大変な労力になるのだ。

それが、海外のそれもエスタブリッシュでもなんでもない個人からの取材に答えてくれるとはなんという心の広さとホスピタリティ精神なのだろう。
深く深く敬意を表したい。

フランソワ・エベル氏はアルルのセンターのフォーラムという広場の正面に位置するNord Pinusというホテルに投宿されていた。ここのテラスで9時から1時間お話ししましょうという約束だった。

氏はアルルの総予算から運営方針などに至るまで事細かに答えてくれた。アルルの総予算は昨年で5億4千万円。そのうちの40%が国と市と県からの援助。スポンサーからの援助が25%、チケット代などの売り上げが35%ということだ。それでも20~25%の費用がたりない、という。スタッフは通年のスタッフが12名でその他は外注とボランティア。5人のキュレーターにキュレーションを任せるという。入場者は6万人。

ナン・ゴールディンは一度アルルでやったことがある写真家でフランソワさんがナンの家をたずねたりして交流しているうちに決まってきたのだそうだ。
ともかくもこの世界最大の写真のお祭りを実行するのにとても時間をかけて丁寧に作り上げていることが伝わってきた。

ポートフォリオレビューはもともとはアルルから始まったもので最初はいろんなホテルのロビーでレビュアーが見ていたのだそう。アルルのフォトフォリオレビューは学生でも参加できるように参加費を低めにおさえているのだそうだ。

パリフォトとの違いは、と質問すると、パリフォトはあくまでギャラリーなどマーケットのコマーシャル。アルルは作家のためにやるもの、写真の歴史を紹介するのが目的なのだ、といいきっていた。



Nord Pinusホテルのバー。ピーター・ビアードの写真が飾ってある。こんなバーで飲んでいたら最高の気分になること間違いなしだ。
ロビーにはピーター・リンドバークの特大の写真が飾ってある。かっこいい、の一言。

おおお、ヘルムート・ニュートンのシャーロット・ランプリングが。いい。

40回目だったアルル その3

アルルに行ったらなにがなんでもお会いしたいと思っていたのがアルルの創始者で写真家のルシアン・クレルク氏。

インターネットで顔写真を見つけ出して、現地で見かけたら話しかけようと思っていた。初日に本部で見かけたのだが、そのときは僕もホテルにチェックインすらしていないときだったのでやり過ごした。

プログラムで展示会場でのエキシビションツアーがある時間を発見。ルシアン・クレルクさんの展示会場は中心街からはタクシーで行かないとならないAbbaye De Montmajourという遺跡のなかでおこなわれていた。 さすがに創始者は人気者でいろいろな人から声をかけられていた。なんとかつかまえて、日本でフォトフェスティバルを開催したいのですが、アドバイスを頂戴したい、と質問すると、「まずお金を集めないといけない、そして早くやらないと僕みたいにおじいさんになっちゃうよ。それから若い人たちのことを忘れずにね。」という単純明快な答えがにこにことした笑顔と一緒に返ってきた。

ルシアンさんがアルルを始めたのは中国で文化大革命が行われた年にアルルで芸術フェスティバルをやろう、という事で相談を受けたことが始まりのようだ。その後音楽などの要素をはずしていって写真だけにしていったのだ、というお話だった。
僕の他にもバルセロナ郊外でフォトフェスティバルをやろうとしているスペイン人のご夫妻がアドバイスをもらっていた。

ともかくもルシアンさんから直接温かいお話を聞けたことはアルルに行った最大の成果といえる。

ルシアンさんの展示はヌードとクラシック絵画とのダブルイメージ。デジタル処理ではなく、35ミリフィルムに一回撮影して、巻き戻し、印をつけたところからまた美術館に行って撮影してダブルエクスポージャーにすると言う古典的なアナログ技法を使って撮影した、と説明があった。しかしそれにしてはイメージがうまくはまりすぎている。

40回目だったアルル その2

40周年にあたっての展示のコンセプトは今までにアルルに参加した写真家を網羅しようということだったようだ。ナン・ゴールディンやデュアン・マイケルズ、ベルナール・フォーコン、ウィリー・ロニス、畠山直哉、サラ・ムーンなどが市のあちらこちらに贅沢なまでに広い会場で展示されていた。

メインゲストにフィーチャーされたナン・ゴールディンはスライドショーの他にも彼女のプライベート・コレクションの展示、彼女が推薦する14名の写真家の展示など多彩な展示となっていた。

この他の展示として重要なのはディスカバリーアワードというマーティン・パーやクリスチャン・ラクロワといった人たちが推薦してノミネートされる世界各地の新人写真家の展示。
昨年は、上海のYang YongLiang(上海M50区のOfoto 所属の写真家)やシンガポールのSean Leeといったアジアの写真家もノミネートされていた。Sean Leeさんとは実はアルルに行くときのTGVで一緒の列車に乗っていたのだが、短パンにサンダルといういでたちで写真家とは思わなかった。
ホテルが一緒だったので、ノミネートされた作家だということがわかったのだ。彼はカンボジアのフォトフェスティバルに出品したことがきっかけでノミネートされたという。ふだんは広告やファッションの写真を撮影しているそうだが、出品されたのは彼自身が女性に扮して自分の二つのアイデンティティの間を浮遊するというテーマ。見かけるたびに飄々とお気楽そうにアルルの街をぶらぶらしていて、この後はヨーロッパを旅するんだ、といっていた。東京にはゲイバーはあるのか、と質問があったのでひょっとしたらそのうちに日本にもやってくるかもしれない。

昨年のディスカバリーアワードで最高賞になったのは、マーティン・パーが推薦したリトアニアの写真家Rimaldas Viksraitisだった。自分の住む小さな村の出来事を追った作品で村人達が裸で飲んだくれていたり、家畜と戯れていたりする小さな共同体の日常の出来事を写しとったもの。マーティン・パーは僕もこんな村に住みたい、と感想を述べたが、成熟しきったヨーロッパの個人主義の世界がもう息苦しくなってどうしようもなくなってきたことの反動かもしれない。


ウィリー・ロニスの展示風景
構図をびしっと決めているところ、女性のヌードにウィットがあるところがオシャレ。
会場に現れたウィリー・ロニス。99歳の誕生日をお祝いする風景。残念ながらその後お亡くなりになった。

40回目だったアルル その1

先週だったか、ファットフォトの編集者・安藤さんからお電話があった。「永田さんは今年はアルルにいかれますか、もし行かれるのなら取材を・・・」というお話。残念ながら今年は行く予定なし。

もう1年になっちゃうわけだ。早い早い。

というわけで昨年のアルルのフォトフェスティバルのことをまだ報告していなかったので、慌てて載せておこうと思う。今を逃したらまぬけですものね。

「アルルの出会い」は毎年7月の最初の週から始まる。昨年は7月7日から12日までがオープニングウィーク。今年は7月3日から13日となっているようだ。このオープニングウィークがアルルのお祭りの一番盛り上がるところで、スライドショーや各種イベント、フォトフォリオレビューなどが集中して行われる。このオープニングウィークの間に世界の写真関係者も5000人くらいと言われる規模で一同に会することになる。まさに世界最大の写真の祭典なのだ。

中でもスライドショーは一番の盛り上がるイベント。渡部さとるさんからこのスライドショーのことを聞いたときは、まあなんとなくスライドショーよね、と思っていたのだが、実際に体験してみるとその規模に圧倒される。
会場はアンチックシアターと呼ばれる古代ローマの野外劇場。観客は2500人収容できる。10メートルくらいの高さの巨大スクリーンに映し出される写真のスライドショーはまさに圧巻だ。

僕が大好きだった写真家デュアン・マイケルズは、この会場にムーンウォークまがいのパフォーマンスで颯爽と登場した。齢70歳代という年齢なのに、もうめちゃ元気でおちゃまなおじさまだった。自作を解説していくなかで「カメラそのものはとてもお利口さんだけど、その後ろにいる写真家はたいがいバカだよね」というくだりにはとても共感できるものがある。

ハイライトはナン・ゴールディンのThe Ballad of Sexual Dependencyのスライドショー。ジプシー系のバンドの生演奏をバックに上映された。 僕はうっかりこのチケットを買い忘れていて、満員ではいれなかったため、仕方なく会場外のすきまからの鑑賞となってしまった。
スライドショーは通しチケットとは別料金になるので注意が必要だ。

会場も暗くなってからしか始まらないので大体、夜10時くらいから始まる。

6月28日冬青社にて

今週の月曜日、28日に冬青社の高橋さんの粋なはからいで実現した集まりがあった。

写真が好きでしょうがない、なにかやりたい、自分でやれることを模索している人たちの集まりだ。

高橋さんのお人柄のなせるわざなのだろう。高橋さんにこういう人たちから個別に相談をもちかけられるのだそうだ。ならば、みんなで集まって一度それぞれの活動を報告しあいましょう、ということになった。

なぜか当日は僕と高橋さん以外は女性ばかり。まさに今の日本を象徴している。そして、皆さん自分の活動のことを語り始めると熱くなって終わりがなくなる。話を聞いていると、僕が考えていたことと近いようなプロジェクトがすでに進んでいたりする。実におもしろい。

さて、こんな小さな集まりから何が生まれるのだろうか。

(小林美香さんとダン・アビーさんは体調不良のため欠席でした)