2011年8月27日土曜日

C4FAP個展開催へのプロセス

The Center for Fine Art Photography North Galleryでの福福星の個展は海外での初めての個展です。
今後同じように海外で個展を開催する写真家のために個展開催までのプロセスを記しておこうと思います。

The Center for Fine Art Photography(C4FAP)のディレクターのHamidah Glasgowさんとはヒューストンのフォトフェストのミーティングプレースではじめてお会いしました。福福星を気にいってもらい個展の可能性もある、という話はその場でもありましたが具体的な話にいたるには時間がかかりました。

日本に帰ってからはメールでのやりとりがあり、まずデンバーインターナショナル空港(DIA)での1年後に予定されているグループ展に福福星を出さないか、という話が進行しはじめます。
まずはこちらからのアクションが大事だと思いグループ展のコンペへの応募をするようにしました。それとC4FAPのウェブの中に個展へのプレゼンテーションが可能だという箇所を見つけたのでガイダンスにしたがって資料を用意してメールを送りました。

Hamidahさんとは2011年1月のフォトLAでもお会いすることができたので、DIAの打ち合わせをしました。
DIAは大きな公共スペースなので、大きなプリントのほうがインパクトがあると思い、できるだけ大きなプリントにしよう、と僕から提案。Hamidahさんも賛成してくれました。ロサンジェルス在住の渡邊博史さんからは大きなプリントは税関でひっかかるときもあるのでなるべく現地でプリントした方がいい、という話も聞いていました。偶然、同じSusan Spiritus GalleryのアーチストであるAdrian Davisさんがプリントサービスもやっている、という話があり、なんと彼の住まいは C4FAPのあるFort Collinsということでこの問題はあっさり解決。
AdrianとはデータとA2サイズのプルーフプリントのやりとりをしながら調整し、40X60インチサイズのプリントを5カット、20x30サイズのプリントを1カットプリントしてもらうことになりました。なにせ写真家ですからカラーコントロールに関しては何の心配もいりませんでした。プリント代も日本の半額くらいの値段でやってくれることになり、大きいプリントに関してはもう万々歳というところです。

DIAの会期は6月から10月が予定されていましたが、これが2転3転して結局C4FAPのCenter Forward展をそのまま持って行き福福星に関してはA2サイズのプリントを3点追加することなりました。個展の方は年末くらいの可能性を言われていましたが、これで予定が変わったのか7,8月か来年の2,3月という提案があり、それなら早いほうがいいだろうと夏場を選びました。スケジュール的にはかなりタイトだな、と思いましたが来年ではちょっとまのびしそうだったので早い時期を選びました。
今回の個展は会期もほぼ2ヶ月と長く、レセプションとアーティストトークは会期半ばになるので会場設営などは現地のスタッフにおまかせするしかない、ということが先ず一番の問題でした。

まずはレセプションなどの日程がしめされたので、現地に行くスケジュールを先にたてて、航空チケットの手配をしました。8月5日、6日には現地にいなければならずこの時期は夏休みのハイシーズンなのでチケット代が高くついてしまったのは痛かったです。

さて具体的な作業ですが、まずHamidahさんからC4FAPのNorth Galleryの見取り図とスナップが送られてきたので、それをもとにプリントのサイズと点数、レイアウトを構想します。結構小さなギャラリーですが、タッパがあるので最初は高い位置まで展示して点数を多く見せるレイアウトをしてみました。

レイアウト作業は現地の見取り図を元にフォトショップで壁面をつくり、そこに写真データを貼り付けていきます。また段ボールで立体の模型をつくってそこにフォトショップでレイアウトしたプリントを貼り付けて実際の空間の見え方をチェックします。
段ボールで簡単に作った模型を撮影してパースをつくり、それをHamidahさんに送って打ち合わせをしました。Hamidahさんからは少し点数が多すぎるので減らした方がいいという意見があり、再構成してまた同じ作業をして送ります。今度はいいんじゃないかということで、レイアウトが決まります。

福福星はかなり初期のデジタルカメラ、Kodak 14nx をISO1600で撮影していますのでノイズの多い絵柄です。それを40X60インチにのばすのはかなり無理があります。それで広告の仕事でよくお世話になっていたジャパンデジタルイメージのレタッチャーに相談してめのばしの技術をおそわりました。ジャパンデジタルイメージはデータメーキングという小さなデータから大きなデータを作り上げることの技術に定評があります。35ミリデジタルカメラで撮影した花の写真を大阪丸井の壁面いっぱいにのばす作業もやってもらったことがあります。
しかしこの作業は地道な手作業の要素が多く時間のかかる作業でした。作業に取りかかる前はこんな作業は不可能じゃないか、と思えるのですが、とにかくこつこつと何時間も作業を続けていくとなんとか1カット2日間くらいかかって完成していく、というしろものです。Adrianにデータを送ってプリントしてもらわなければならない都合上この作業を一番に仕上げました。
Adrianからは送ったデータは完璧なのでまったく問題なし、と言われましたが現地に行って聞いた話ですと、アメリカではこういう場合レタッチでの作業はしないで、データを先ず小さくし、そのデータからフィルムをつくります。そのフィルムを使って大きく引き延ばすそうです。ただこの作業はコストが高くつくそうです。

C4FAPのいいところは額装しなくても写真をそのままマグネットでとめて展示できるところです。この方式を使うと額装代が節約できます。
僕は5点だけゴールドとシルバーのフレームをつくって額装し、あとはマグネット方式にしました。フレームは染め刷り師の木田俊一さんから紹介された野田展史さんに依頼。丁寧な仕事で完璧な額装をしてくれます。
宗教的な雰囲気を演出したかったので、ゴールドとシルバーの額をつくってみました。

プリントの搬入の締め切りが決まっているので、その日の1週間前にフレームやプリントを郵便局のEMSで送ります。フェデックスに比べるとかなり安く送れますがそれでもフレーム付の作品は重くかさばるのでかなりの料金をとられます。EMSでもフェデックスと同じようにインターネットで追跡調査ができるので現地に着いたことが確認できて便利です。

現物を送ってしまえば一安心です。あとは作品のリストを送ったり、ポスター用のデータを送ったりなど、細かいメールでのやりとりが続きます。少し大きめのデータなどはメール添付ではなく、Yousenditというファイル転送サービスを使います。このサービスは日本と同じように無料のものと大きな容量を送れる有料のサービスがあります。

一番時間がかかったのがアーティストトーク用のKeynoteづくりです。先ず日本語で原稿をつくって、翻訳は井元智香子さんという方にお願いしました。若い翻訳家ですが、とても丁寧な仕事をしてくださるので助かります。
翻訳ができてきて自分でも読んでみましたが、難しい単語もあって自分でしゃべるのはかなり難しいな、と思いました。夏休みをかねて家族で行くことにしていたので現地では奥様のセリーンにしゃべってもらうことにしていましたが、彼女の仕事の都合と入院中の義理の母の具合が悪いことなどがかさなって、急遽同行しないことになりました。

そこで、Keynoteにセリーンにナレーションを吹きこんでもらって、それを現地で流すことに方針をかえました。
ナレーションつきのキーノートは25分あり、それに福福星の7分のスライドショーを作成して見てもらうことにしました。トークの時間は1時間なので時間配分もちょうどいいとみていました。Hamidahさんにもそれぞれの長さを伝えておいたので問題なしとふんでいました。

当日通訳がいる方がいいな、と思いミキシなどでもよびかけてみましたが日本ではみつかりませんでした。しかたがないのでHamidahさんに一任して、いなければしょうがない、ということで腹をくくりました。
結局Hamidahさんが C4FAPのボードメンバーによびかけてFacebookに載せてみたところわずか10分でDanさんというエンジニア系の方ですが、日本に何回かいらっしゃって仕事をしている方が見つかりました。

念入りに用意していたキーノートでしたが、現地についてHamidahさんにみてもらったところ、内容はすごく好評だったのですが時間を10分に切り詰めたいという話になり、ナレーション付のキーノートは切り貼りができないので、前半だけ流してあとはHamidahさんが概略を説明し、あとは質問タイムとスライドショーを流すことに土壇場で決定。まあどたばたですね。でもアメリカ人はなんかこの辺は全然気にしてません。

アーティストトーク用の原稿をつくることは自作を客観的に見ることにとても役立ちます。アーティストステートメントを書くことも同じ意味から重要ですが、アーティストトークではさらにつっこんで自作を解説することになるからです。さまざまな角度から自作を考えることによって思いがけない発見もでてくるのです。

通訳のDanさんは主に5歳の娘の遊び相手になってしまい、質問タイムは結局僕がへらへら英語で答えることになりました。質問がわからないときはDanさんに聞いた部分もあります。
それから同時におこなわれているBlack & White展との合同レセプションになりました。結局皆さんぼくのところに来てはいろいろと質問したりするので、これじゃ通訳がいてもだめだな、と実感。こういう時は半分くらいしか通じなくても直接対話がいいんだな、と感じました。学生の子なんかは、こちらがわかっている、いないにかかわらずぺらぺら自分のことをまくしたてますし、まあそういう文化なんでしょうね。

地元の彫刻家からは、アメリカ人のアーティストは自分のことばかりがなりたてるけど、おまえはそうじゃないから気に入った。ロートレックは当時の酒場やダンスホールに行って絵を描いたんだ。おまえのStar of the Starsも同じことなんだよ。と、はげまされたりもしました。

ひとりの女性からサインしてくれ、といわれたときは、ほんまかいな、とびっくり。写真集がまだなかったのが残念でしたが、パリにはじめてロケに行ったときに偶然ヘルムート・ニュートンとチャイニーズレストランで遭遇してサインしてもらったときのことを思い出して、その女性の名前を聞き、 To ○○○○ with my best wish なんて言葉をそえてサインできたのはミーハーしたおかげです。(日本に帰ってからヘルムート・ニュートンのサインを確認したところFor Yoichi Nagata with my very best wishes Helmut Newton 12.6.1986となってましたけどね)

現地にいる間はずっとディレクターのHamidahさんの家に宿泊させてもらいました。現場からクルマで5分の場所でしたが目の前はゴルフ場と湖というすばらしい環境です。犬がいるからホテルにするか、といわれましたがこういう場合はホームステイのほうが断然いいのです。どちらにしてもアーチストの現地滞在費はだしてくれるようです。 Fort Collinsはデンバー空港からクルマで1時間の街ですが、空港までの送り迎えもHamidah さんがきてくれました。
作品制作代や航空チケット代などこちら負担の経費も多いのですが、作品の返却費用はセンターでもってくれます。
また、ソロショーをやったアーチストにはギャラがでるのだ、ということで500ドルが支払われました。これはとてもありがたいことでした。

ハミダさんから送られてきた仕様とスナップ、インチをメートルに直してスケール感を実感できるようにします。
フォトショップでシミュレーションした展開図をプリントアウトして簡単な展示模型を作ります。
模型を撮影してパースを作ります。
メリハリをつけるために5点だけ金箔、銀箔のフレームを作りました。扱いがデリケートでせっかく野田さんが作成してくれたフレームの記録撮影をする過程で傷つけてしまいました。野田さんは文句も言わずに丁寧に補修してくださいました。
金箔・銀箔のフレームは十時にレイアウト。
North Galleryでの実際の展示風景1。
North Galleryでの実際の展示風景2。
North Galleryでの実際の展示風景3。
C4FAPでは写真家の便宜をはかるために額装なしでもマグネットを使って直接壁に展示できるようになっている。額装、マットはどうしても経費のかかる部分なので大変ありがたい。40x60のプリントもマグネットでとめてしまえるのにはびっくり。
アーティストトークのお知らせ用メール。こうした広報関係はスタッフのNicoleさんがすべて用意してくれる。
地元の雑誌のウェブにもお知らせが掲載された。
レセプション風景。
アーティストトーク用にはMac Book Proを持参したが、スピーカーとうまくつながらずにハミダさんのMacを使った。

地元のショップにはいろいろなお知らせ用のポスターが貼られている。小さな街なので小さなポスターが効果的。

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