2017年9月3日日曜日

六甲で考えたこと その1

今年でMt.Rokko Photo Festivalに参加させていただくのは5回目になります。僕のような一写真家の立場から写真業界でささやかな活動をしている者を忍耐強く呼んでいただいている杉山さんにはほんとうに頭が下がる思いです。
ポートフォリオレビューを中心とするこのイベントはおそらく主催の杉山武毅さんがレビューサンタフェのレビュアーとして参加されて大きなインスピレーションを得られたのがきっかけとなっていると思います。僕もまたレビューサンタフェに写真家として参加して集まった100名の写真家の作品を見てものすごく刺激的だったことを考えれば大いに納得できることだと思います。

さて、突然話が変わりますが金融業界にはセルサイドの人間とバイサイドの人間がいると言われています。さまざまなファンドを組み立てて他人の財産を運用している人の中でも自分の財産もその中に組み込んで必死に運用している人をバイサイドの側にいる、と表現しています。
同じ事がフォトインダストリー(写真業界)にもあてはまります。レビューサンタフェやThe Center for Fine Art Photography, Fraction Magazineなどはまさにバイサイドの側にたった人達が運営しています。杉山さんが運営する六甲もまたバイサイドにたったイベントだと思います。

しかしながら日本ではバイサイドに立つゆえにさまざまな苦悩もかかえることになるのです。

まず第一にバイサイドに立つ人間(ファンドマネージャー)は自己財産を投資しなければなりません。欧米のイベントでは国家・地方行政・企業・個人投資家などが予算の半分以上を負担していますが日本では予算面でこうした支援は殆どないことが多いです。またファンドマネージャーに自分の財産を託そうという人がその人にまかせっぱなしで利益が減った時に文句を言うだけでは健全なファンド運営ができません。ファンドマネージャーに財産を託す人もまた中長期の視点をもってファンドマネージャーと価値観を共有しなければ中長期的に大きな見返りを期待できません。つまりバイサイドに立つファンドマネージャーとともに財産を運用しようという人はファンドマネージャーと価値観を共有しあいながらとれるリスクはとる、という姿勢をもちグループみんなで世界情勢を読みながら戦っていかなくては利益が得られないわけです。

日本は主要カメラメーカーが並び立つカメラ王国でプロからアマチュアまでカメラメーカーの厚い庇護のもとに活動が保証されていました。少なくともバブル崩壊前までは。
プロであれ、アマチュアであれカメラメーカーから見ていい作品を撮っている人はいい写真家でした。しかしながら、現在のようなこれまでのすべての価値観が崩れ去り新しいパラダイムに世界全体が動いているような状況下では写真家も中長期の視点をもつことはもちろんのこと世界情勢を判断する力や情報処理能力、基本的な写真のリテラシー、コンテンポラリーアート業界の動向、そしてなによりも自分自身の哲学をきちんともっていることがとても大事な要件になります。

六甲・神戸に集まる写真家がこのような強い視点をもっていれば、そこには自ずから世界のフォトインダストリーに対しても強い力が生まれるはずです。その場所が生き生きと輝いてきてパワーを感じられる場所になっていくはずです。
今年は開催5年目ですがぼくにはまだそのパワーを感じ取ることができませんでした。もちろんこれから10年、20年と長期スパンでものごとを見る必要もありますが、集まった写真家の方々が自分の作品のことしか考えずにできれば世界デビューしたいな、くらいの考え方しかもっていないとしたらセルサイドのファンドマネージャーにたやすくだまされてしまい、たとえ世界デビューできたとしても大きなパワーを持つことはできないと思います。

だいじなのは地政学的な視点でもあると思います。僕たちは日本というバックグラウンドを持った写真家です。もう少しひろげれば東アジアというバックグラウンドをもっています。世界のフォトインダストリーから見ればその地点で今何が起こっているのか、その地点の写真家がこの混沌とした世界情勢のなかで今なにを考えているのか、ということはとても興味があることなのです。
考えてみて下さい。アメリカの力が落ちてきて世界は新しい枠組みをつくろうともがいているところなわけです。今までのような右肩上がりの経済成長を前提とした資本主義は破綻しています。その中で日本は世界に先駆けて人口減少の世界に突入する国です。これまでの世界の常識が完全に通用しなくなっていく社会を初めて経験する国です。いったいそんな国でこれからどんなことが起こっていくのか、その国の写真家はどんなことを感じているのかということを世界の人々は知りたがっているのではないでしょうか。
世界から集まってきたフォトインダストリーの人達が六甲で面白い事が起こっている、ここに集まってくる写真家の考え方は面白い、と思ってもらえるような場にしていくのは当の写真家自らが考え実行するしかないことです。これはオーガナイザーである杉山さんにはできないことなのです。杉山さんのできることはその前提である六甲の場のしつらえを写真家のためにつくることです。でも杉山さんのこしらえてくれたしつらえの中で世界の目から見て面白いな、というムーブメントをおこすのは個々の写真家にしかできない、もしくは写真家同士がいろいろとコラボして何かを作り上げて見せてくれるしかないと思います。

写真の世界でもこれまでとは違った考え方ややり方を世界中で模索しているところなわけです。新しいやり方をためしてみるビッグチャンスでもあるわけです。杉山さんがうなるような作品や展示方法、さらにいえば杉山さんには理解できないような新しいスタイルの写真でもいいでしょう。そういうパワーをぶつけていく場になれば六甲・神戸という場はもっと注目されるようになるはずです。

六甲・神戸の展示方法と場所はずいぶんとシェープアップされてきて、杉山さんが選んだ世界の写真家のさまざまなスタイルの写真が一同に介して展示されるようになっています。残念なのはSNSなどでの事後報告で有意義だった、楽しかったという報告はあるものの神戸にくればこれらの素晴らしい作品を短時間にみることができることや展示された他の写真家の作品に対する感想や批評、これからどんな発信がなされていけばいいだろうか、というような発言がないことです。もちろん六甲から世界の舞台にでてそこからさらに自分の作品を世に問いつづけることでもいいのですが、それができるのは少数の写真家に限られるでしょう。でもオーガナイザーである杉山さんを応援しつつ六甲・神戸から独自の発信をしていこう、ということでできることはそれぞれの写真家にもあるはずだと思います。現に欧米ではそのような事をやっている写真家は大勢いますし、そこから新しい潮流が生まれてもいると思います。

六甲・神戸に強い発信力を持った写真家が集まって注目されるようになれば、次には東アジアのフォトインダストリーでのキーパーソンが集まるようなコンベンション(会議)も開けるようになるでしょうし、そこから日本や東アジアの写真のブランディングや価値付けもおこなわれていくようになるでしょう。そこまで行くことができれば世界は逆転して日本に居ながらにして世界から注目を浴びることも可能になるわけです。

ぜひそんなことまで視野にいれて六甲・神戸という地場を盛り上げていこうじゃないか、という心意気をMt.Rokko Photo Festivalに集まる写真家はぜひ持って欲しいな、と思います。

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